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Freccia Celeste

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混沌の使い魔 目次 

Posted on 00:00:00

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つながりの先に 

Posted on 18:46:38


 小さなテーブルを挟んで談笑する、二人の女性。

 露出の多いラフな衣服に身を包んだサーシャと、それとは対照的なエレオノール。しかし、そこに流れる空気はとても和やかなもの。

 サーシャは、バターの香ばしいクッキーを一枚、二枚と口に放り込み、まだ熱い湯気の立ち昇る紅茶を一息に飲む。そんな粗野な仕草にも、エレオノールは慣れた手つきでお代わりの紅茶を注ぐ。

「ありがとう。ね、クッキーもあなたのお手製? とても美味しいわ」

「ええ、そういってもらえると嬉しいわ。やってみると、案外楽しいものよ。あなたもどうかしら?」

 サーシャはクッキーを更に一枚、口に放り込む。

「……まあ、考えておくわ」

「料理は結構好きなのに、お菓子作りは興味がないのよね。あなたは」

 サーシャは、長く尖った自らの耳に触れながら、言葉を探す。

「んー、興味が無いわけじゃないけれど、性に合わないというか、ね。一つ一つ分量をきっちり計ってというのが、どうもね」

「残念ね。一緒に作るのも楽しいかと思ったんだけれど」

 エレオノールは湯気の立ち上るカップに口をつけ、サーシャは上目遣いに伺う。

「……私の性格、分かっているんでしょう?」

「ええ、もちろん。あなたって、顔に似合わず大雑把なのよね」

「あなたは無駄に細かいわよね」

「あなたが雑過ぎるのよ」

「いやいや、私はエルフの中では雑だったけれど、人間の基準なら普通よ」

「やっぱり、雑だったんじゃない」

「……それは認めるわ」

 サーシャは、最後に残っていたクッキーを乱暴に嚙み砕く。

 今回は、エレオノールの勝ち。

 二人のお茶会ではこういったやり取りがしょっちゅうだが、決して仲が悪いということは無い。むしろ、毎日のようにお互いに行き来している。

 そも、二人の立場は特殊で、何かと心労が多い。少しばかり風変わりな近所付き合いが必要で、ふとしたきっかけから諍いが起これば、それはそれは筆舌に尽くしがたい大変なことになる。

 感情とは厄介なもの。たとえ結果が全ての序列が先にあったとしても、避けがたい。二人にとっては、立場が同じで、理解しあえる友はとても大切なもの。だからこそ、お互いに守り、支え合う。それこそ、家族のように。

 そして、そんな二人のお茶会で話題に上ることが多いのは、お互いのパートナーに対する愚痴。結果として様々な弱みを交換することになり、その誰かは頭が上がらなくなった。既に取り返しのつかなくなったその状況を知った時の二人の顔は、エレオノールとサーシャにとってはなかなかに見ものだった。つまり、上下関係というものは完全に確定している。

 そんな二人の中に語るべきことは既にないと思っていたが、はたとサーシャは気付いた。まだ触れていない話題があったことに。

「ねえ、聞いていい?」

「あなたはダメって言っても、聞くでしょう?」

「うん」

 既になれたこととはいえ、エレオノールはかすかに眉根を下げる。ただ、無駄だと分かりきっている非難はしない。

「──で、何かしら?」

「好きよ、あなたのそういうところ。でね、あなたが彼を選んだ理由って、どうしてだったのかなって」

「シキさんを?」

「そう。私は選択肢が無かったけれど、あなたは違うじゃない。あなたは、全てを捨ててでも選んだってことでしょう?」

「……そういう聞き方をされると、さすがに気恥ずかしいんだけれど。まあ、あなたも話すなら、良いわよ」

「私があいつを選んだ理由? 別に構わないけれど、面白くないわよ。あなたも、私があいつの使い魔だったのは知っているでしょう?」 

「ええ」

「エルフである私が、格下の人間ごときに使い魔として呼ばれた。不愉快なはずだったけれど、それを受け入れてしまった。今から思えば、使い魔のルーンのせいなんでしょうね。でも、一緒にいて楽しかったのは事実。何かこれっていう特別なことがあったわけじゃないけれど、一緒にいるうちになし崩しね。あとは、あいつ一人で放っておけないと思ったからかな。結局ね、好き嫌いなんてそういうものでしょう。それらしいことを言うなら、一緒にいて心地良いかどうか」

 サーシャの表情に、影がさす。しかし、それは刹那のこと。

「私は、バカをやったあいつを殺した。あいつがやったことは許せないし、それしかなかったから。けれど、私もあいつを殺した。だから、今更それを言っても仕方がないわ。お互いに、その方がいいの。せっかく二度目の生なんだから、引きずっちゃ損よ。確かに、こうなったことに誰かの思惑はあったのかもしれない。でも、選んだのは私。私自身が後悔していないんだから、それで良いのよ」

 力強く言い切ったサーシャに、エレオノールは微笑む。

「私も、似たようなものね。何かがあったわけじゃない。あの人は、誰よりも強い。でも、どこか危なかっかしい。一人にしちゃ駄目だって思った時に、私は決めていたんだと思うわ。ああ、でも、実はもっと前からなのかも。出会ってすぐ、私、あの人からの贈り物としてチョーカーをもらったの。チョーカーって、要は首輪のようなものでしょう? 他の人からなら抵抗があったと思うけれど、あの人からもらった時には、最初から身につけるつもりでいたもの」

 サーシャが、悪戯っぽく笑う。

「私達って、最初っから首輪をはめられていたわけね。うわぁ、あいつらってば最悪だわ。放っておけないなんて思わせる癖に、無垢な乙女に首輪なんてつけて」

「ええ、受け入れちゃった私達もね。でも、私達はそれだけじゃ駄目よね?」

「もちろんよ。あいつらってば、何かあると自分達で抱え込んじゃうもの。私達はもっともっと強くなって、あいつらの手綱を握るぐらいじゃないと。私達二人で、引っ張っていかないと」

「そうね。あなたと一緒ならできる気がするわ。私一人じゃ、途方にくれていたと思うわ」

「私だってそうよ。……そう思うと、不思議ね」

 何かを想うように目を細めるサーシャ。その視線は、エレオノールに。

「ブリミルは、あなたの気の遠くなるぐらい遠いご先祖様なわけよね。そんなあなたが私達と一緒にいるというのは、とても不思議。人のつながりっていうのは、本当に不思議で分からないものね」

 エレオノールが微笑む。

「だから、楽しいんじゃない。これからもきっと、新しい出会いはあるわ。せっかく、永い時間があるんだもの。第二の人生、目一杯楽しまないと損よ。あなたが言った通りね。失くしたものをを嘆くだけの人生なんて、つまらないじゃない?」

 サーシャの瞳には、驚きと、そして、喜び。

「私、あなたのそういうところ、大好きよ。ずっと、友達でいましょうね」

 エレオノールの瞳には、少しばかりの気恥ずかしさと、サーシャに負けないぐらいの喜びの光。

「私も、あなたのような気持ちの良い人は──好きよ」












 とある場所で、男二人が言葉を交わす。

 互いに女の尻に敷かれていることを嘆きながら、それでも、馬鹿をやった自分達について来てくれたことに感謝の想いを込めて。

「──さあ、行こうか」

「──本命の大仕事だ」






あとがき
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思い出と共に 

Posted on 15:56:47


 小さな丸テーブルの中心に、寂しげな蝋燭の明かり。

 マチルダは、ワインを味わうでも無く、ただ飲んでいた。ゆらゆら揺れる炎と、丸っこい瓶の影。

 グラスの影が一つ、加わる。

「──珍しいね、テファ」

「たまには、そういう気分にもなるわ」

 既に寝衣に着替えたテファが微笑む。飾り気が無くても、いや、だからこそ、ぼんやりとした明かりの中のテファには、幻想的な美しさと儚さがある。姿は少女のままでも、身に纏う空気は、大人びた。

「……そう。あんたはほどほどにしなさいね。そんなにお酒に強くないんだから」

 グラスの半ばまで赤い液体を注ぎ、そして、自らのグラスには溢れんばかりに注ぐ。

「何か、簡単なものぐらい作ろうか?」

 テファの問いに、マチルダは首を振る。

「いいよ。私を太らせないで。私はいいからさ、残っているチーズは食べちゃっていいよ」

 皿には、チーズのスライスが数枚。テファの記憶が確かであれば、半分も減っていない。

 テファは、チーズを少しだけ齧って、ワインを傾ける。渋みのある、重い味わい。普段なら口にしない。

 眉根を寄せるテファに、今度はマチルダが微笑む。上目遣いに見返すも、置かれたグラスは、注がれた時からほんの少し減っただけ。

 テファもちびりちびりと飲む中で、マチルダのグラスが空になった。テファのグラスは、ほとんど変わらない。マチルダが水を持ってくると、テファは無言で飲み干した。

「無理しなくていいから。──で、何か言いたいことがあるんでしょう?」

 テファは、未だにワインの渋みに耐えるような顔。

「……姉さんは、寂しいって思うことはない?」

 今度は、マチルダがそんな顔になる。

「……随分とストレートな質問ね」

「だって……」

 泣きそうな顔に、マチルダは仕方ないなと苦笑い。昔のようにテファの頭を撫でると、テファは困ったように口を尖らせるも、はね退けたりはしない。

「寂しいとは、思うわ。例えば、冬に、ふと人肌恋しくなったりね。でもね、私はあなたを選んだの。大切な妹がとても大きなことをしようとしているのに、一人になんてできないわ。あの人は一人でも大丈夫だし、私だけじゃないから」

 マチルダの指が、空のグラスの縁をなぞる

「それにね、思い出は消えないの。たとえ、あの世界が無くなったことになっても、覚えているのが私達だけになってもね。私は、一生の宝物をもらったの。ね、そうは思わない?」

 真っ直ぐな視線に、テファは目をそらす。

「……でも、過去だけを見ても苦しいだけでしょう」

「うーん、あなたに言われると……」

 今度はマチルダが困った表情になる。過去だけを見てをいけないとは、かつてマチルダがテファに言い聞かせた言葉でもあったから。

 テファは、マチルダを見つめる。

「ねえ、新しい恋だっていいじゃない。──例えば、ワルドさんとか」

 思わぬ言葉に、マチルダが咳き込む。

「なんであいつの名前を……」

「でも、あの人は姉さんのことが気になるみたいだけれど。前にこの国に来た時、一緒に飲みに行ったでしょう? あの、帰らなかった日」

「……誰にそんな話を聞いたのよ?」

「それは秘密」

「……うー。でも、何もないからね。ただ、飲んだだけ。それは、ちょっと、飲みすぎちゃったりしたけれど……」

「でも、あの人のこと、嫌いじゃないでしょう?」

 マチルダは渋い顔。

「あいつはダメ男の匂いがする。それに、マザコンっぽい気もする」

「そういう人は、嫌い?」

「あんたも言うようになったわね……」

「私だって、いつまでも子供のままじゃないわ」

「……強くなったのは良いけれど。まあ、また飲みに行くぐらいはするかもね。でもね、私は私自身で選んだから、あんたが気にすることはないのよ。私のことはいいから、あんただって自分の幸せを見つけなさい。誰かの為にっていうのは、これまでずっとやってきたんだから」

「あら、私は幸せよ。家族だって、沢山いるもの。血のつながりよりも、もっと大切なつながりの」

 自信たっぷりのテファの表情に、マチルダは幾人もの玉砕者を思い浮かべる。

「男共がなりたい家族というのは、ちょっと違うみたいだけれどね」

「それは……。どうしても、弟か、子供としか見れないというか……」

「分からないでもないけれど、あんたは全然老けないから、余計にたちが悪いよ。言うなら、小悪魔?」

「う、うー……」

「ごめんごめん。ちょっと意地悪な言い方だったね」

「そうだよ。皆、大切な家族なのに」

 子供の頃のように頬を膨らませるテファに、マチルダも温かい気持ちになる。

「随分とまあ、大きな家族だ。それに、これからも増えていくわけだ」

「うん。皆、私の子供みたいなもの。子供の、そのまた子供にも囲まれて息を引き取るなんて、素敵でしょう?」

「こーら、老後のことを目標にしてどうするのよ」

「大丈夫よ、ずっと先。たぶん、何百年も先の話だから。今だって十分に幸せだもの、こんなに幸せな人生ってないわ」

「あんたらしいのかしらねぇ」

 テファは、ふわりと微笑む。

「その時には、皆で植えた木も大きくなっているわ。私よりも長生きして、私が死んだ後も皆を見守ってくれる。思い出と一緒に、ずっと、ずっと見守ってくれる。ね、素敵でしょう」




あとがき
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信じるままに、思うがままに 

Posted on 14:53:24


 静かな店内に、何度目かのため息。

 開店からこのかた、来客を告げるカウベルは黙ったまま。ここしばらく、いつもなら賑やかになる時間になっても店内はこの調子で、料理の担当も、接客の担当も、皆が退屈そうにしている。

「──お客さん、来ないね」

 掃除をする場所も無くなって、手持ち無沙汰になった女の子。

「そうだねぇ。まあ、しばらくは仕方がないよ」

 もっとやることがないマリコルヌは、いつもと同じように答える。ただ、マリコルヌだけはそれで良いと思っている。

 子供達は曖昧にしか知らないが、彼だけは違う。今はとても大きな戦の真っ最中で、街からも多くの男手がそこに加わっている。マリコルヌは店にいるのは、子供達をそれから遠ざけることをお願いされたから。

 店で何かがあれば、その時こそがマリコルヌが役目を果たす時。だから、暇なままで良い。そうであるからこそ、時折聞こえる大きな音にも、年上のマリコルヌがいるだけで、子供達も不安にならずに済む。

 ただ、この日は違った。これまでよりもずっと大きな音と、体にも
感じる地面の揺れ。皆が外に飛び出す。

 音の先に、大きな雲の塊が浮かび上がり、空へと広がっていく。それこそ、本で見た噴火の姿そのままに。

 不安そうにマリコルヌを見つめる子供達に、マリコルヌは自らの不安を押し隠す。大丈夫だと言い聞かせて、無理やりに店の中に追い返す。店の中でこれまでのように時間が過ぎるのを待つが、しかし、二度めの音が聞こえた時に決心した。様子だけは確認しようと。

 マリコルヌは自分に言い聞かせる。あの人達が負けるはずがない、行くのは、自らの目で見る為。それでこそ、子供達を不安がらせずに済む。子供達には店を閉めて戸締りをしっかりするように言い聞かせて、街を飛び立った。







 近付くにつれて強くなる焼け焦げた臭いと、異様な景色。

 黒々と焦げた地面に、蚊柱のように覆うガーゴイルの群れ。人の陣には、点々と掲げられるただ一揃いの旗。ゲルマニアのそれだけが、自らの存在を主張している。

 一地方貴族の嫡子であるマリコルヌとはいえ、ゲルマニアがどういった国か、そして、どんな王を戴いているかは知っている。だから、学院へと向かう。

 学院は、そこにあった。しかし、グロテスクな氷の彫像が、学院に殺到するその姿のまま何重にも入り口を囲んでいる。その場に漂う凍える冷気とは別に、怖気の走る光景。

 だが、更に増援が来るまでの間であれば、近づける。マリコルヌは、遠く向かってくるもの達へ一度だけ振り返り、そして、かつての学び舎だった建物の門をくぐる。

 学院へ侵入したマリコルヌに、様々な視線が刺さる。その中には、マリコルヌも見知ったウラルもいた。その腕の一振りで起こる風に、マリコルヌは地面を転がる。しかし、そのおかげで、爆発で崩れ落ちる瓦礫に潰されずに済んだ。

 それからマリコルヌは、見るだけだった。

 止まない銃撃に倒れるもの、形振り構わない自爆での道連れ。学院の奥へ、奥へと下がっていく。反撃は、かろうじて残るばかり。最初から予想できた結果に、マリコルヌはウラルへ逃げるように訴えかけるが、冷たくあしらわれた。やるべきことをやる、これは私の意思だからと。マリコルヌは、諦めた。

 ウラルがアイリスと共に外へと羽ばたく時、力強い風が空に道を作った。銃弾と共に風は凪いだが、しかし、それで十分だった。彼女らが自らが決めた死に場所に向かうには、十分。











 広場で遊ぶ、2人の少女。金色の髪の子と、銀色の髪の子。将来は美人になることが確実だと誰もが自信を持って言える、とても可愛らしい顔立ち。2人とも、屈託無く笑っている。

 そして、それを遠くからねっとりとした視線で見つめる良い年の男。身なりは良い。むしろ、それなりの立場だと誰の目にも明らか。

「──2人とも、可愛いなぁ。どんどん綺麗になっていくし、何より、少しずつ大きくなるおっぱい。お母様も良いおっぱいだから、もうすぐお胸様と呼ばないといけなくなるね。そうは、思わないかい?」

 男の横に控える騎士は、どちらとも取れる曖昧な返事だけを返す。誰の目にも怪しい男は、女の子には優しいが、自分以外の男には厳しい。 下手な返事は嫉妬の炎を煽り、それでいて、その嫉妬は洒落にならない。

 この怪しい男の灼熱の暴風は、国の防衛の要の一つとなるほどもの。実力は確かであり、だからこそ、どうやっても言い逃れのできない変態的言動も見逃されている。女王たるルイズが矯正の為に何度か灸をすえることもあったが、それすら快感とするので、放置するという結論に至った。今以上悪化することは、ましてやそれが自分に向か可能性は、ルイズとしても本意ではない

 それに、怪しい男がお気に入りの少女2人も、害が無ければと何故だか許容した。理由の一つには、彼から提供されるチョコレートのおかげかもしれない。最高級の材料を集めて、たしかな技術で作るお菓子は、誰の舌をも唸らせる。無駄ではないが、結構な努力でその技術を身につけた。自らが作ったもので、というのが良いらしい。

 ともあれこの男、少なくとも女の子に対する人となりには問題が無い。大枚をつぎ込んで孤児院を運営するなど、非難しようもない善行の数々も行っている。結果としてではあるが、そこにおいては男の子にも手を差し伸べている。一部の男の子には、女の子に対する以上に優しくすらある。

 それに、同じだけの金を使えばいくらでも美少女をはべらすこともできるのだが、それだけはしない。勇気を出して尋ねた者に、男は笑って言った。

「ぼかぁね、どうやったって主役じゃないんだ。だから、見守るだけでいいんだよ。彼女達が幸せになる手助けができれば、それで満足さ。ああ、そうだ。パパって呼んでくれたら、それはそれで嬉しいな」

 そんな彼には、物騒なものとは別の、親しみを込めた二つ名がある。変態紳士──彼の人となりを表すに、それ以上の言葉は無い。






あとがき
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幸せの形 

Posted on 17:19:33


 扉を開けたルクシャナが、待ち望んだ客人へ微笑みかける。

「来てくれて嬉しいわ。叔父様に、ファーティマも」

 ルクシャナは、変わった。もちろん、悪い意味ではない。爛漫な少女から、大人の女性への一歩を踏み込んだ。ともすればエルフの中でも枯れているビダーシャルをして、綺麗になったと唸らせる。姿形ではない。しかし、所作一つにも、たおやかさが見て取れる。だが、それはそれとして、家族として言わねばならぬことがある。

「妊娠初期は安静にすべきだと聞くが、そのように動き回って良いのか?」

 ビダーシャルの視線はルクシャナに、そして、後ろのアリィーに向けられる。予想通りの反応に、ルクシャナは苦笑する。

「それ、アリィーにも言われたわ。もう、みんな心配し過ぎよ。大人しくなんてしていたら、ストレスがたまって仕方ないわ」

 口では面倒だというルクシャナも、その言葉にどこか嬉しさを滲ませる。ルクシャナはただ、大切にされ過ぎることにほんの少しだけ食傷気味なだけ。その事実こそが、嬉しくもある。

「ま、上がってちょうだい。ファーティマも変な遠慮はせずにね」

「あ、はい」

 ルクシャナの前では、ファーティマは遠慮がちになる。逆に、ルクシャナは、ファーティマに対して楽しげな様子を見せる。例えるなら、獲物を前にしたネコのような。そう、以前と全く変わらないその姿を。








 白が基調の、広々としたリビングに通される。以前はルクシャナの趣味の一品がそこここに散乱していたが、妊娠が分かった時点で、清潔第一とアリーが強制的に片付けた。その時の爪痕は、アリィーの顔に薄っすらと残っている。むろん、片付けただけで別のところに保管されている。捨てるなどという蛮勇をアリィーがもち合わせるはずも無し。

 ビダーシャルはアリィーの努力を心の内で讃え、手土産をルクシャナに渡す。

「本と、これは何かしら?」

 ルクシャナの手には、精緻な意匠の施されたブリキの缶。

「本は、最近流行っているという人の国のものだ。引きこもっていると退屈するだろうからな。子が生まれれば、読み聞かせてやれば良い。缶の方だが、それはイザベラに頼んで仕入れて貰った、タンポポを材料にしたという珈琲だ。珈琲でありながら刺激物が入っていないとのことでな、お腹の子に気兼ねなく楽しめるそうだ」

 ルクシャナが、驚いたと目を丸くする。

「珈琲は嬉しいわ。アリィーはあれもダメこれもダメってうるさいけれど、それなら大丈夫ね。叔父様は実用性ありきだと思っていたから、ちょっと驚いたわ」

 ビダーシャルは、うっすらと頬を緩める。

「珈琲は、ファーティマが選んだものだ。私は、そういったものには疎いからな。自分でも自覚している」

 ルクシャナの視線はファーティマへ。ファーティマは、びくりと体を震わせる。

「ありがとう。それにしても、ファーティマは本当に可愛いわね。そんな風にされるとね、 またいじめたくなっちゃうじゃない。──もちろん、冗談よ。さて、せっかくだものね。この珈琲を淹れてみようかしら。ファーティマ、淹れ方は普通の珈琲と同じよね?」

「それで大丈夫です」

「了解」

 ルクシャナは、一緒に立ち上がったアリィーに困ったように笑いながらも、何も言わずにキッチンへ向かう。

 ルクシャナが湯を沸かし、アリィーがカップを準備する。大丈夫だということは分かっていても、やはりビダーシャルも心配になる。自身がそういった立場になって、妊婦本人よりも周りが過保護になる理由がようやく理解できた。

「アリィーに任せても良いのではないか? いや、全く動かないのもよろしくないと分かってはいるのだが……」

 準備の手を休めて、ルクシャナがくるりと振り返る。

「大丈夫だってば。ね、見て。お腹だってまだほとんど変わらないでしょう? あ、でも、胸は少し大きくなったの。また、一緒にお風呂に入って確かめる?」

 いたずらっぽく笑うルクシャナに、ファーティマが頬を膨らませて唸る。

「……そういうのは、ダメ」

 ルクシャナは、予想通りの反応にカラカラと笑う。

「ふふ、冗談よ。それに、お風呂は子供の頃の話。叔父様ったら真面目で、いくら好きだって言っても全然相手にしてくれなかったわ。今だってそうだけれど、もうずっと子供扱い。どんなに真面目に言っても、子供に手は出せないの一点張りなんだもの。だから、私とそう変わらないファーティマを妻にするって聞いて本当に驚いたの。胸だって、私より小さいから」

「いやあ、君は今妊娠しているからで、そう変わらない……」

 カップの準備を終わらせたアリィーが口を滑らせるが、途中で口を噤む。正確には、させられる。

「ねえ、アリィー。今、私は包丁を持っているから、そういうのは良くないと思わない? うっかり手が滑っちゃうかも?」

「……お茶を淹れるのに、なぜ包丁を」

「せっかくだから、ケーキをね?」

 アリーの頬に、ピタピタと包丁が当てられる。

 ビダーシャルは、困ったものだと目を細める。しかし、咎めようとは思わない。それこそが2人らしいのだから。

 以前にも増して、尻にしかれるアリィー。あと一年もすれば、そこにもう一人家族が加わるが、その関係は変わらないだろう。生まれてくる子が娘であれば、きっと……

 そして、そんなやり取りをファーティマは羨むように眺める。堅物のビダーシャルと奥手のファーティマではなかなか起こりえない。しかし、ファーティマもそういった関係に憧れる。だからこそ、2人のやり取りを自分に置き換えたファーティマは、知らず頬を染める。






「──また来てね」

 ルクシャナとアリィーに見送られて2人になったところで、ファーティマはビダーシャルの服の裾を引く。ビダーシャルを見上げるファーティマ。

「私も、子供が欲しいから、ね?」

 幼子の仕草でありながら、どこか妖艶な微笑み。ファーティマは、自らの夢に想いを馳せる。











 ビダーシャルに対して、アリィーが呟く。

「少し、痩せました?」

「……まあ、な」

 もともとが線の細いエルフではあるが、それでも。

「滋養強壮には、人間が色々と作っています。俺も、世話になりました。少しばかり癪ですが、この分野に関しては勝てないと断言できます」

「イザベラからも、提供の申し出があったが……」

「断ったんですか?」

「毎日のように盛っているらしいな──などと言われて、素直に受け取れるか?」

「……いえ。むしろ、よく我慢しましたね」

「……だが、背に腹には変えられん。しかし、しかしだ……」








あとがき
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