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Freccia Celeste

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第23話 A Little Happiness 

Posted on 22:51:23

 私は、何も悪いことなんてしていない。

 私が悪いというのなら、それはこの世界が悪いから。

 そんな風に思っていた時もあった。

 でも、今は違う。




 
 今更そんなことを言おうなんて思わない。怪盗などと気取っては見ても、所詮は盗人。結局は自分の復讐の為だし、殺した相手はいなかったけれど、それはただの結果。たまたまそうなったというだけのこと。だから、私がどうなるとしても、今の幸せを手放すなんて本当に嫌だけれど、たぶん仕方がない。

 けれど、テファは違う。テファは心優しい子だし、幸せにならなくちゃいけない。テファが人を殺したのだって、きっと仕方がなかったから。そうでなければ、テファがそんなことをするはずがない。目の前でお母さんが殺されたっていうのに、人を恨むということは決してしなかった、それがテファだ。

 そんなテファが悪いというのなら、それは、エルフだから。それなら、テファは生まれて来ちゃいけなかったということ。ただエルフだというだけで普通の暮らしすらできないなんて間違っている。私はそんなの認めないし、テファの為なら私は、なんだってする。

 本当は、テファが静かに暮らせるというのならそれで良かった。それだけで良かった。でも、それはもう無理。だから、例え最善じゃなくても、普通の幸せじゃなくてもいい。

 その為なら私は――










「――ただいま」

 ようやく故郷から帰ってきたマチルダが笑った。本当に嬉しそうで、それはきっと、俺も同じ。だから、同じように言葉を返した。

「おかえり」

 ほんの数ヶ月前は、そんな言葉で人を迎えることになるとは思わなかった。それなのに、今ではその言葉が当然のものになっていた。

「シキさん、私がいなくて寂しかったですか?」

 いたずらっぽく笑ってみせる。せいぜい一週間ぐらいだというのに、その笑顔がとても懐かしいものに思えた。ああ、俺は本当にマチルダのことが好きなんだと、改めて思う。この日常、もう二度と手放したくない。一度は無くしたものだから、その大切さが分かる。

「ああ、早く帰ってきて欲しいとずっと思っていた」

 だから、本心をそのまま伝える。そうすると、いつもからかってきたマチルダの方が恥ずかしげに身をよじらせる。今だって、頬を赤く染めている。

「そういうところ、ぜんぜん変わらないですね。でも、そういうセリフ、私も期待してたんですよね」

 そう言って、マチルダから唇を重ねる。

「――今日は、私の部屋に来てくれますよね? どうせ毎日エレオノールさんの部屋に入り浸ってたんでしょう。だったら、しばらく私が独占したって良いですよね?」









 夜になって、マチルダの部屋を訪れた。

 部屋の中でマチルダはベッドに腰掛け、その脇の小さなテーブルの上にはワインの瓶とグラスが二つ。そして、食堂から失敬して来たんだろう、一部がすでに切り取られた丸いチーズにサラミとがあった。

 質素ながらも、相手が特別ならそれで十分。ただ、今夜の誘いは酒かと、少しだけ拍子抜けした。表情に出したつもりはなかったというのに、マチルダは何を考えているのか分かったのか、意地悪く微笑んで見せる。

「あはは、最初からそのつもりだったんですか? もうシキさんってば、えっちなんだから。あ、別にしたくないわけじゃないんですよ。……ただ、ちょっとぐらいお話したいなっていうだけですから。女の子のそういう気持ちも、ちゃあんと汲んでくださいね?」

 それもいいかと、笑い返して、マチルダの隣に腰掛けた。手渡されたグラスを受け取る。グラスの半ばまで注いでもらい、お互いにグラスを傾けた。俺は半分程度だが、マチルダは一息に飲み干した。

 お互いに笑って、もう一度継ぎ足す。

「久しぶり会った妹は元気だったか?」

「――ええ。元気でしたよ。一緒に暮らしている子供達も一回り大きくなっていましたしね」

 一瞬だけ目を伏せ、すぐに笑った。何か言いたそうに見えた。

「……そうか。元気だったというのなら、何よりだ。一緒に暮らしている子供達というのは、確か、孤児だったか?」

「はい。理由はそれぞれですけれどね。両親が死んじゃったり、捨てられたり。テファは優しいから、そういう子達を見つけると放っておけないんです。テファは本当に、優しすぎるぐらいに優しいから。きっと、これからもっと増えるでしょうね」

「それは、戦争のせいか?」

「ええ。戦争は終わったといっても、アルビオンはまだこれからが大変ですからね」

 マチルダが手の中のグラスをじっと見つめる。それでいて、どこか遠くを見ているようだった。

 ほんの数年前は遠い世界での出来事だった戦争。今は、ただの命のやりとりだけではないということも、身にしみて感じている。戦争は、その世界の全てを台無しにする。あの世界でもそうだったし、この世界でもそうだ。

 たとえば、戦争で人がとられれば、その間は畑は荒れる。直接的に荒らされることだってあるだろう。もし戦争が終わったからといって、それですぐに元通りになるわけではない。その国で生活する人間にとっては、むしろこれからが大変なのかもしれない。孤児ともなれば、きっとそれ以上に。

「子供達を引き取ってくれる孤児院というのは、ないのか?」

「もちろんありますよ。それが子供達にとっていい場所かは別ですけれどね。虐待なんて日常茶飯事で、酷いところでは子供を食い物にしている場所だってありますし。もちろんちゃんとした場所だってあるでしょうけれど、そこだって余裕があるわけじゃないですしね。それに、無事にそこを出ることができたとしても、一人で生きていけるかは、やっぱり分からないです」

「……そうか」

 それが現実なのかもしれない。誰だって、自分たちのことで精一杯だろう、分かりきったことだった。

 思えば、先進国と呼ばれる日本でも孤児院には後ろ暗い話があった。ちゃんとした法律がないこの世界では尚更だろう。

「ま、あんまり暗い話をしたって仕方がないですよね。少なくとも、テファが引き取った子達は幸せに暮らしています。それ以上はやっぱり難しいです。国をあげてでもないと。どこかのお金持ちがお金を出してくれたとしても、その時だけでは意味がないですから。子供達が大きくなるまで、少なくとも、一人立ちできるようになるまでは。それまでは誰かが手をさしのべないと」

 言い切る様子に、迷いはない。

 きっと、体を売ったというのも、盗みを始めたきっかけというのも、もとをただせば妹と、そして子供達の為だったんだろう。

 なにかできれば、とは思う。ただ、本当になんとかしたいと思うのなら、まとまった金、世話をできる人間、そしてそれを安定して運営できるようにしなくてはいけない。将来のことを考えるのなら教育、働き口だって必要だろう。全てを揃えるというのは、難しい。

 いつの間にか、マチルダがじっと見ていた。

「――シキさんも、優しいですよね。そんなに真剣に考えてくれる人なんてなかなかいないですよ。貴族は皆自分本位だし、平民は、自分が生きることで精一杯。一部は違う人も居るみたいですけれど、そんな人は本当に少ないですからね。何より、そんなもの、見ようとしない限りは分からないものですし」

 肩にマチルダが身を寄せる。テーブルに置かれたグラスは、既に空になっていた。

「本当は一緒に暮らせればいいんですけれど。そうすれば、少しは。……あはは。あんまり暗い話ばかりだと気が滅入っちゃいますね。――うん。久しぶりに抱いてください」

 上目遣いに見上げるその様子は、どこか縋るようだった。

 ゆっくりと目を閉じると、マチルダから唇を合わせてきた。今度は合わせるだけではなく、舌を絡めるようにして。だから、肩を抱き寄せ、そのままベッドに押し倒した。

 唇は合わせたまま、右手でブラウスのボタンをはずしていく。恥ずかしげに身じろぎはしても、なすがまま、拒むことはない。一つ、二つ、順番にはずしていく。

 ようやく唇を離し、ブラウスをはだけさせると、下着の中に、形の良い乳房が露わになる。隙間から指を差し入れると、その下着からもこぼれ落ちる。唇を落とし、舌を這わせる。

 耳元に熱い吐息がかかる。それでもゆっくりと、じらすように。マチルダが自分から「お願い」するまで。

 それが分かっているから、マチルダもおずおずと口にする。どうしても慣れないから、小さな声で。俺の左手をとり、自分の足の間へと導きながら。触れると、下着の上からでもそれと分かるほどに濡れていた。

 ゆっくりと円を描くように触れた。それだけで切なげな吐息がこぼれる。

「――意地悪、しないで下さい」

 すっかり濡れてしまった下着を、マチルダは自分から脱ぎ捨てる。指を差し入れると、体を震わせ、貪るように飲み込んだ。ゆっくりと引き抜き、代わりに俺のものをあてがう。背中に回された手に、急かすように力が込められた。








 マチルダが疲れて動けなくなるまで愛し合った。今は腕の中で丸くなり、うとうととしている。その表情は全くの無防備で、どこか子供のようだった。

 もしかしたら、それが本当の素顔なのかもしれない。守るものが多すぎて子供のままでいられなかっただけで。髪を撫でながら、そんなことを思った。

 マチルダが、腕の中で身じろぎした。

「……テファ……」

 悲しげに名前を呼んだ。アルビオンにいるという妹を。

 本当は、一緒に暮らしたいんだろう。アルビオンという国のことを思えば、そこにいる妹のことを心配するというのは、姉として当然のことだ。

 腕の中で丸くなるマチルダを抱きしめる。女性らしい柔らかさはあっても、力を入れれば折れてしまいそうなぐらいに細い。

 眠る前、今日は抱きしめられたまま眠りたい、朝を起きた時も一緒に居て欲しいと言った。だから、今日は抱きしめたまま眠ろう。朝目が覚めたときに、そこに居られるように。

 マチルダの妹と、世話をしているという子供達。マチルダにとっては大切な家族。自分を犠牲にしてでも守りたい、一人で守ってきた家族。

 傍らに眠るマチルダの頬に触れる。

 俺のやるべきこと。

 迷う必要はない。愛する人の家族すら守れないなら、なんのための力だ。俺は、俺が守りたいもの為に力を振るおう。そのためなら、例えこの世界の神と敵対しようが構わない。もし邪魔をするというのなら、力付くででも押し通す。

 ――もう、迷わない。












 故郷であるアルビオンに帰ると言っていたロングビルさんが、ようやく学院へと帰ってきた。しばらく考えたいことがあるということだったけれど、答えは見つかったのだろうか。

 でも、久しぶりに会ったその顔は、まだ見つかっていないようだった。

 もしも悩みがあるというのなら、できるならば、私には話して欲しい。
 
 確かに同じ人を好きなった、言うならばライバル。でも、抱く気持ちは同じ。同じ人を、同じくらい愛して。私はそんな感情を今まで持ったことがなかったし、そんな正直な感情を誰かと共有したことはなかった。だから私は、彼女をかけがえのない友人だと思っている。

 正直なところを言えば、シキさんを独り占めしたい気持ちはある。

 でも、同じくらい――それは言い過ぎかもしれないけれど――彼女のことも好きだ。

 綺麗で、頭が良くて、スタイルが良くて、人付き合いもうまくて。私にないものをたくさん持っている。そんな彼女がうらやましくもあるし、同じ人が好き、同じ気持ちを持っているということが誇らしくもある。

 友人が少ない私ではあるけれど、彼女は私にとって一番の友人。一生つきあっていきたい、そう思った初めての人だ。だから、彼女が何かに悩んでいるのなら力になりたい。それは、偽りのない私の本心。

 だから、彼女がシキさんを独り占めするのも、我慢しよう。







「昨日はシキさんと一緒でしたか」

 食堂の外、オープンテラスでロングビルさんと二人。我慢すると言っても、私はやはり嫉妬深いようで、言葉は恨みがましくなってしまう。そういう性分を彼女は分かってくれているので、苦笑しながらも嫌な顔はしない。

 だからついつい彼女に甘えてしまっている。何だかんだでそれ受けて入れてくれる彼女がやっぱり好きだ。まあ、年上としてそれでいいのかとは思うけれど。

「ええ、しばらくエレオノールさんが独り占めしてたんですから、私だって良いですよね?」

 そう言われれば反論できない。

「……5、3ぐらいで」

 我慢する。でも、いざ口にしようとするとそんな言葉がでてきた。頭と感情は違う。身を持って体験するとは思わなかった。

「駄目です。まあ、譲歩して3、2ぐらいですかね?」

 ロングビルさんがテーブルの上に肘を乗せ、絡ませた指の上で不敵に笑う。その顔が、どうしてか悪魔のように見えた。確かに十分すぎるぐらいに譲歩してくれているというのが分かるのに。

「……分かりました。ええ、私だって独り占めしてたんですからね。仕方ないです」

 納得はしているけれど、どうしても恨みがましく上目遣いになってしまう。

「じゃあ、しばらくは私が優先ということで」

 わがままな子供に対するような視線を向けられて、本当にどちらが年上なのか分からない。私自身、自分がこんなに子供っぽいことをするなんて思わなかった。

 少しの間睨み合って、どちらからともなく、笑いだす。

 今はこんなやり取りが楽しくもある。何かにそこまで夢中になるなんて、今までなかったから。まあ、この話はここまでにしよう。これ以上子供のようにわがままを言っても仕方がない。

「アルビオンでは、妹さんに会ってきたんですよね? 元気にされていましたか? あなたの妹さんでしたらきっと綺麗な方なんでしょうね」

「――ええ、元気にしていましたよ。ただ、確かに私よりもずっと綺麗な子ですけれど、実は血はつながっていないんですよ」

 ロングビルさんが困ったように笑った。そこにはどこか悲しげな陰があった。

「あまり、聞くべきことではありませんでしたか」

 すでに言葉にしてしまったけれど、心配になる。

「いえ。まあ、事情はあまり言うべきことではないですけれど、大切な妹には違いがないですから。あなたが妹を大切に思っているのと同じように、私はあの子のことが好きです。私の、大切な妹です」

「私は、苛めてばかりですけれどね……」

 何かと頬をつねったりしているから、ルイズも私よりもカトレアに懐いている。シキさんのことで相談に来てくれた時は、嬉しかったけれど、やっぱり意外だった。大好きだとはっきり言えるロングビルさんが少しだけ羨ましい。

「でも、大切にしているのは変わりないでしょう? 確かにちょっとやりすぎなこともありますが、それでも、大切にしているのぐらいは分かりますよ。私も、同じですから分かります」

「……まあ、そういうことにしておきます。その方が良い姉のようですから」

 面と向かっていわれるとさすがに気恥ずかしいので、つい視線を逸らす。それこそ認めてしまっているようなものではあるけれど。少しだけ気まずいから、別の話題に変えよう。

「そういえば、妹さんとは一緒に暮らさないんですか? 少なくとも今は、この国の方が安全でしょう。何でもとは言えませんが、私も有る程度の便宜は図れますし」

 何なら、実家から竜駕籠を手配してもいい。それぐらいはさせて欲しい。

「ありがとうございます」

 困ったようにかすかに浮かべたほほえみは、拒絶だろうか。何か事情があるというのなら、差し出がましかったかもしれない。

「……エレオノールさんの実家は、この国でも有数の貴族なんですよね」

 ロングビルさんが誰にともなく呟いた。

「まあ、そうですね」

「できるなら……。いえ、何でもないです」

 何かを懇願するようだったけれど、すぐにまた困ったようなほほえみに変わった。

「私にできることなら何でも言ってください。私はあなたのことを――親友だと思っていますし、できることなら助けになりたいですから」

「ありがとうございます。本当にどうしようもなくなったら、お願いしますね」

 寂しげなほほえみは、変わらなかった。

 私はこの人の助けになりたい。それは、素直な私の気持ち。でも、これ以上踏み込んでいいことなのかは分からない。ただ純粋に助けになりたいだけだけれど、私はどうしたらいいんだろう。











 ベッドに背中から倒れ込む。安物のベッドだから、クッションはあまり効いてはいない。

 何となく視線を部屋の中へと流す。

 ベッドから見る部屋は殺風景なもの。軽く体をひねって見渡してみても、家具は必要最小限、実用性だけで選んだから仕方がない。今自分がいるベッドと、傍のサイドテーブルと、小さなワードローブぐらい。寂しい部屋。

 二人なら気にならないけれど、一人になるとそう思う。

 家具については、テファと住んでいたあの家ともそう変わらないはずなのに、どうしてだろう。あの家はあんなに温かいのに。

 テファと一緒なら、シキさん達が言うように、一緒に暮らせたらどんなにいいだろう。

 そのためには――

「いつ、話そうかな……」

 テファを守って欲しい、ただ一言、シキさんにお願いすればそれで叶う。

 シキさんならきっと助けてくれるし、シキさんの庇護下なら、たとえエルフだとしても誰も手が出せない。テファの父親は二人を守れなかったけれど、シキさんなら例え何があっても大丈夫。

 でも、それはシキさんを利用するようで、……違う、紛れもなく利用するということ。

 私達があげられるものなんて、体ぐらいだし。テファにもそれは言い含めたけれど、そんなんじゃ足りない。

 テファにとっても、それがいいことなのかは分からない。でも、テファを守るためには、仕方がない。今のままあそこに暮らしていたって、いつかは破綻する。

 ううん、もう既に壊れかけている。あのままだと、全てを抱え込もうとするテファはいつか壊れちゃう。

 だったら、お母さんと同じ立場にはなるのかもしれないけれど、今度はたとえ私たち以外の皆が敵になったって大丈夫。

 子供達は、エレオノールさんにお願いすれば。

 彼女の実家はすごいお金持ち。たぶん、サウスゴーダ家が一番力を持っていたときよりもずっと。今テファが世話をしている子達を使用人としてでも受け入れてもらえれば、きっと今よりは幸せ。

 最初はつらいかもしれないけれど、大人になった後のことも心配ないと思う。彼女は良い人だから、お願いしたなら、なんだかんだいろいろと面倒を見てくれると思う。

 代わりに私ができることは、私が身を引くことぐらいかなぁ。そんなことあの人のプライドが許さないかもしれないけれど。

 ううん、私が……

 天井を見上げたけれど、目に映るそれは歪んでいた。

 やっぱり嫌だよ。せっかく初めて本当に好きな人ができたのに。目を右手で拭った。考えただけで涙が出るなんて思わなかった。

 あはは、覚悟、決めたつもりだったんだけれどなぁ。

 テファのことはシキさんに、子ども達のことはエレオノールさんにお願いする。二人なら絶対に力になってくれるし、それが一番良いって思ったんだけれど、私、自分で決めたことなのに、まだ躊躇してる。テファをそのままにしてちゃいけない。そんなの分かりきったことなのに。

 ――明日は、二人に話そう。







 夢を見た。

 シキさんのそばには、エレオノールさん。そして、少しだけ離れてテファがいる。でも、いつも笑っていたあの子は寂しそうな顔。そして、私はそこにはいない。そんな夢。

 覚えていたのはそんな一瞬だったけれど、目が覚めた時、とても悲しかった。









 憂鬱な気持ちで廊下を歩いていると、シキさんに呼び止められた。

 そして、そばにはエレオノールさんも一緒にいた。見慣れた光景のはずなのに、変な夢を見たから、私も変な気持ちになる。ただそれだけで、どうしてか二人の顔を見られなかった。

 今日は絶対に話すって決めたはずなのに、これじゃずるずると先延ばしになっちゃう。

「昨日、二人で話したんだ」

 シキさんが言った。何のことだろうと私が疑問を浮かべると、エレオノールさんが言葉を続けた。

「あなたの本当の名前も、教えてもらいました」

 私は、シキさんを睨みつけていた。

 私はシキさんには、シキさんだから教えていた。この人にだけは知っていて欲しかったから。

「了解を得なかったのは――済まないと思う。だが、俺だけでは助けになれそうもなかった。だから、手伝ってもらうことにしたんだ。妹と子供達と、一緒に暮らせるように」

 ようやく、分かった。二人が何を言いたいか。

「同情、ですか……」

 それなのに、助けてもらおうと考えていたはずなのに、声が震えた。

「ねえ、マチルダさん」

 限られた人しか知らない、捨てたも同然の名前を呼ばれた。その声は、とても優しかった。

「私はあなたのことを親友だと思っています。親友を助けたいと思うのは当然じゃありませんか? 私ができることで頼ってもらえないのは、悲しいです」

 彼女が浮かべているのは、優しい笑顔だった。

 物語の中の女神様よりもずっとずっと温かい。どうしてか、お母様のことを思い出した。

 私はもう、何も言えなかった。









 私の部屋に入って、三人で話した。私は、ただ聞かれたことを答えるだけだったけれど。

 一つ一つの出来事を話した。

 ウエストウッド村のこと。親を亡くしたり、捨てられたりして孤児になった子供を引き取っていること。そして、テファがハーフエルフであること。

 エレオノールさんは一瞬驚いたような顔をしたけれど、それ以上のことは尋ねなかった。

 私が言いたくないことは聞かず、ただ必要なことだけを聞くと、シキさんとエレオノールさんは二人で話し始めた。子供達とテファを引き取るということを前提に、その為にはどうすれば良いかを。

 エレオノールさんの実家で引き取る。でも、ただ引き取るだけでは駄目。戦争で増えた孤児は他にもたくさん居るはずだから、仕組みとしても安心して過ごせるような孤児院が必要ではないかということを。今あるものはそれから遠いということも。

 それならばと、将来のことを考えて、教育も必要。実際、一部の寺院などで平民相手に文字の読み書きを教えている。そういったことを参考にできないか。あくまで例外ではあるが、非常に有用だと。

 資金はヴァリエール家で出せるように、父に相談する。シキさんも個人で調達できるようにする。それだけじゃなく、将来の自活の為の方法を考える。

 そんなことを、他人事のはずなだというのに、シキさんとエレオノールさん、二人はとても真剣に話していた。

 私は夢の続きを見ているようだった。






 ――どうして、こんなに優しいの?

 ――どうして、私達なんかに優しくしてくれるの?

 それが信じられなくて、別の世界での出来事のように、私はどこか遠くみていた。私たちみたいなやっかいもののことを考えてくれるような人なんていないと思っていたから。

 でも、本当に真剣な二人を見て、本当のことだって分かって。

 ようやくそれが実感できて、私は声をあげて泣いていた。子供の時だってこんなになったことはなかった。二人の目の前だというのに、涙が止まらなかった。

 二人は優しく笑うと、子供相手にするように抱きしめてくれた。

 それが温かくて、心地よくて、これが幸せということだって、ようやく分かった。

テーマ - 二次創作:小説

ジャンル - 小説・文学

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この記事へのコメント

話の構成上仕方ないのかもしれませんがここ何話か全然話が進んでないですね。

imini | URL | #mQop/nM.

2011/08/28 23:15 * 編集 *

感想

孤児院かぁ。
自重捨てたっぽいから、学園以上に防衛戦力がスゴイことになりそうですね。

ファルケ | URL | #Do36FZBw

2011/08/29 01:45 * 編集 *

Re: タイトルなし

そればかりはなんとも……
次の一話も今回の続きで、実際に話が進んでいくのは、25話からになります。

you | URL | #-

2011/08/29 05:35 * 編集 *

Re: 感想

防衛戦力もそうですが、「準備」が表・裏ともに全力になります。

you | URL | #-

2011/08/29 05:37 * 編集 *

最近更新が早くて楽しいです

龍人 | URL | #-

2011/08/31 19:09 * 編集 *

Re: タイトルなし

> 最近更新が早くて楽しいです

ありがとうございます。
最近は定期的に載せられるようになったので、次は15日前後を目途にしたいと思っています。

you | URL | #-

2011/09/01 06:19 * 編集 *

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