第35話 Everything is in a state of flux

34話に続いて、今回もまた準備回。
なおかつ、主要キャラクターも出てこないという……
必要だと思うからこそ書いているけれど、軽いノリにする予定の次話はできるだけ早めに書きたいところ。

それと、最近ネット小説は別として、新しい本の開拓というのが全然ないから、そこもなんとかしたい。
SFやスチームパンクといったジャンル、ベースになるものがないとなると、いざ書こうとしても難しい。










 村に来た、見慣れない男達。

 先頭の馬に乗った男は、遠目にも分かる上等な布地に、やたらと手の込んだ作りの服を着ている。ここらでゴテゴテしく飾りの付いた服を着るやつなんていやしない。一目でお貴族様と分かる。しかし、領主の所にいるのと違って、ぶくぶくと無駄に太っているなんてことがない。むしろ、どこか肉食獣染みた鋭さを感じさせるほど。

 そして、後に続くのは──ぱっと見には男だと思ったが、ちょっと分からない。何せ、大柄な体を真っ黒な布ですっぽりと覆っている。そんなのが二人も続いていると、はっきり言って気味が悪い。

 しかし、いつもは偉そうな村長がやたらと頭を下げているからには、本当にお偉い人ではあるのだろう。興味がないといえば嘘になるが、面倒事を押し付けられてはたまらない。こういうときは村長に頑張ってもらうに限る。その為の村長だ。

 さて、畑に戻るとしよう。お貴族様にサボっているなどと言われてはたまらない。








 次の日、村長が皆を集めた。後ろには昨日のお貴族様。その両隣には、変わらず布を被った大柄な人物。

 何が始まるのかと周りを見渡すと、隣のやつと目があった。不安げな表情は面倒ごとにならないでくれよという心配の現れだろう。きっと俺も同じ顔だ。前に似たようなことがあった時は、荷運びに駆り出された。弁当こそ出るが、結局はタダ働き、たまったものじゃない。そもそも、畑仕事だって休むわけにはいかないのだから。

「──皆、聞いてくれ」

 村長が声を張り上げる。

「こちらにおわすはガリアが誇る、花壇騎士団のお方。はるばるこの村の為にお越しくださった」

 おお、という声が上がる。かく言う俺もその一人。

 花壇騎士団と言えば、親が語ってくれる物語にも出てくるぐらいだ。俺だって小さなころは憧れた。貴族でない俺が魔法なんて使えるわけがないと分かって、結局憧れで終わったけれども。

 しかし、花壇騎士団と言えば貴族の中の貴族。そんな方が何のためにと疑問が浮かぶが、そこで続く村長からの答え。

「ゴブリン共の被害を訴える我らのために、王が派遣下さった」

 ──ああ、と思い至る。

 確かに、ゴブリン共に畑が荒らされていると領主様に訴えたことがあった。しかし、全く期待していなかった。むろんあわよくばとは思っていたが、誰が真面目に期待するだろう。これは俺だけじゃないはず。

 ふと、お貴族様──いや、騎士様が前に出る。なるほど、騎士様がぶくぶくと太っているなんてことはあるはずない。俺らとは違う凄みも、それならばと納得がいくというもの。

「諸君、まず名乗らせてもらおう。私は、南花壇騎士団のバロリーだ」

 ツラツラと続く騎士様の声はよく通る声なんだが、少し難しい。なんとか理解できたのは、とても偉い方だということと、どうやらゴブリン退治に一緒に来ていただけるということ。

 そして、一緒にいるのはガーゴイルだという。布を取ると、ずんぐりとした人型なんだが、体と一体になった全身鎧を着ているよう。顔らしいものはあっても表情がない。それこそ、馬鹿でかい爬虫類のようで気味が悪い。ギョロリとした目は生き物のようだが、同時に作り物染みてもいて、不気味さに一層拍車をかける。

 連れているガーゴイルというのは強そうだし、そりゃあ確かにメイジの方に来ていただければ心配もない。しかし、森の中に入れるのか。騎士様もやっぱり貴族だし、連れているのも体が重そうだ。








 薄暗い、一人で入るのを戸惑わせる空気さえある森の入り口。

 辛うじて獣道らしきものがないでもないが、せいぜい一人が通るのがやっとといったところ。今日は村の若いのが総出で来ている上に騎士様が一緒だから怖くもないが、正直、一人では遠慮したい場所だ。

 それはそれとして、また一つ問題がある。人が来ない場所であるから、馬で行くのは難しい。当然、馬で来た騎士様は降りなければならない。

 何と言うべきかと迷っていると、騎士様は戸惑いなく馬から降り、そのまま歩き始める。後を追うのは2体のガーゴイルだけ。どちらも感心するほど軽やかに進む。まさかお貴族様が文句も言わずにと見ていると、振り返る。

「何をしている? 案内役が先を歩かずになんとする」

 その言葉に慌てて皆が追うが、騎士様はその間もどんどん進む。言われるがままなんとか武器になりそうな農機具を持ってきた自分たち。そのせいで歩き辛いといっても、まさか自分達の方が置いていかれるとは。以前に領主様に従った時には、なかなか進まずとっとと終わらせたい自分らがやきもきしたというのに。









 案内役が先頭に、ゴブリン達の住処があるだろう場所へ進む。騎士様が場所について尋ね、答える。巣穴の様子や何匹ぐらいいるのか、加えて回りの地形やら、普段自分達はどうやって追い払っているのかなどまで。なんやかんや、色々なことを考えようとするのには、ただただ感心した。雲の上の方には本当に偉い人がいるんだなと。

 そりゃあ、国を治める貴族様なんだから村長よりもすごいのは当然なんだろうけれども、今までそんな人は見たことなかったものだから。

 先頭のやつがそろそろ巣穴が見えてくると言うと、騎士様が足を止めた。何事かと皆が戸惑う中、皆に言われる。

「さて、これからゴブリンどもを退治するわけだが、基本的に私は手を貸すだけだ。実際の退治は君らにやってもらう」

 思わず首を傾げる。皆も同じ気持ちのはずだ。だったらなぜ、わざわざここまで来てくれたのだと。騎士様が言う。

「疑問はもっとも。君らでも分かるよう、きちんと説明しよう」

 大人から子供への言い含めるように──それに思うことがないでもないが、仕方がない。騎士様からしたら、俺らは何も知らないもいいところだから。騎士様は気にせずに続ける。

「ゴブリン如き、私からすればものの数ではない。が、君らにとってはどうだろう? むろん、一対一ならどうということはない。しかし、数が多いうえに、番いが残ってしまえばすぐに数が戻ってしまうのがあいつらだ。一度退治してもまたどこかから移ってくるということもあるだろう。となると、私がいつまでもいるわけではない以上、君らでも対処できるようにならねば解決しないというわけだ。──それは良いかね?」

 騎士様の言うことは分かる。

 しかし、怪我をする可能性がないわけじゃない。あいつらだって武器らしきものを使うし、稀に手強いやつがいる。そのせいで怪我をして畑を耕すことができなくなれば、食えなくなる。それはとても恐ろしいこと。

 だからこそ、なかなか思いきれない。村総出でやればまた違ってくるが、それはそれで難しい。村が空っぽになるのもそうだし、結局、誰かが怪我をするだろうということは変わらない。

 不安げな皆の様子に、頷くかのようにお貴族様が言う。

「君らが心配しているだろう内容は分かる。怪我をするかもしれないということだろう。しかし、そこは心配しなくても良い。ただ闇雲にやれとは言わない、私から策を授けよう。それに、危なくなれば私がいるのだから」

 見るからに自信に溢れた騎士様。きっと、これまで何ともならないことなんて無かったんだろう。それは、羨ましい。うまく言葉に出来ないけれど、そんな生き方ができたら幸せだろうなと、何となく思う。










「──さて、皆準備は良いかね? 」

 俺らが頷くと、騎士様は呪文を唱えはじめる。

 お貴族様が言った作戦というのはどんな仰々しいものかと思えば、存外簡単なものだった。敢えて威力を弱めた炎の魔法を巣穴に投げ込む。ようは、煙で炙り出すというものだ。それなら、準備さえすれば俺らでもできること。難しいことを考えられない俺らでも、巣穴に篭った獣を追い出すのにやることだってある。

 騎士様から注意を促す声。

 そして、騎士様が掲げた杖から、炎の塊が飛ぶ。巣穴の前で弾けて、ものすごい量の煙が出てくる。ただし、燃やすのではなく敢えて煙だけを。そうして、あとは待つだけ。

 出てこないかと思うようになった頃、咳き込みながら緑色のゴブリン共が出てきた。巣穴から出てきたところで、俺は握りしめていた石を投げる。俺のは外れたが、他のやつが投げた石がゴブリンの頭に当たる。

 ガツンと嫌な音。

 薄気味悪い緑色の皮膚だが、血は赤い。ゴブリン共は頭を庇うようするが、構わずありったけの石を投げる。何匹かは巣穴に逃げ込んだが、当たりどころが悪かっただろう、6匹はそのまま倒れている。適当に削っただけの棍棒をもっていたが、使われることなく転がっている。

 弓は使えるやつしか使えないが、石を投げるだけなら誰でも出来るし、どこでも手に入る。言われた通りにやっただけだが、効果的かもしれない。毛皮の厚い獣にはともかく、亜人のようなものには案外良さそうだ。

 無理に近づいて怪我をする心配がないというのも良い。いざとなれば騎士様のガーゴイルが盾になってくれるという話だが、いくら安全だと分かっていてもそんな状況になるのは勘弁して欲しい。

 しばらく待ってもう出てこないとなると、騎士様が杖を振る。すると、もくもくと上がっていた煙が水をかけたように消えて無くなる。魔法というのは本当によく分からない。槇もないのに一人でに燃え上がって、それが自由自在。ほんの小さな火でも自由に作れれれば、飯を作ることだってどれだけ楽になるだろう。

「──さて、では巣穴の中の確認をするとしようか。ガーゴイルが最初に入るから、後ろから付いて行くように。2人は見張りとして残る。何かあれば片方が知らせに入る。それと、念のためそこに転がっているのにはとどめを必ず刺して、土を被せるだけで良いから埋めておくように。その方が面倒がない」

 騎士様の言う通り、まだ息があったゴブリンにトドメを刺す。断末魔は、耳障りだった。








 あとはただの作業。

 巣穴に逃げ込んだやつに、雌と子供を全部始末する。反撃してくるような元気なやつもいたが、ガーゴイルを棍棒で叩いても硬い音がするだけ。その隙にこちらからも槍を突き出すのだが、ゴブリン共は既に逃げ腰になのだから楽なもの。そんな奴が相手なら自分が怪我をする心配なんてない。

 そして、終わったら巣穴の回りで待ち伏せ。戻ってくるものがあれば、前と同じように石を投げて動かなくなったやつにとどめを刺す。日が暮れるまでそれを繰り返したから、たぶんこの巣穴を根城にしているやつは皆殺しにできただろう。

 それにしても、誰も逃げ腰にならないから、驚くほど簡単だった。普段なら少し大きな獣を狩るにも腰が引けるやつがいて大変だというのに。いや、まあ、安全だと分かっている今と同じに考えるのがおかしいんだが。

 最後に、騎士様に普段の退治とどう違ったかを随分と熱心に聞かれた。答えた内容に対して、だったらこうすればどうかということまで聞かれて、ない頭を必死に働かせた。ひょっとしたら、ゴブリン退治よりよっぽど疲れたかもしれない。







 戻ると、久方ぶりの宴になった。

 村の中心に火を焚いて、猪を焼く。気前の良い事に、騎士様が帰り掛けに皆の為にと仕留めてくれた。そして、街から持ってきたというワインまで振舞って下さった。街でも人気だというだけあって、やはり美味い。素人作りと違って丁寧なのか、妙な渋みもない。美味い肉に、美味い酒、俺らにとってはそれだけで十分。

 ただ、一つだけ不安だ。

 騎士様は宴を見るだけで、挨拶が終わった村長と家で何かを話している。料金の請求などはどうなるのだろう。前に領主様からの手伝いが来た時には、なんやかんやと請求された。税を払っているのだから領主様からの請求はないにしても、実際に来た人間がどうするかは別問題。あまり高いと、冬を越せないなんてことだってありえる。騎士様の請求なんて、一体全体どれくらいになるのか。







 次の日、やはり村長が皆を集めた。そばには騎士様もいる。話は費用のことかと思ったら、そうではなかった。

 どうにも意外な内容で、なんと、皆で山賊狩をするという。今度はそのための方法を教える、と。そりゃあ、山賊の被害の方が大きいとはいっても、わざわざ訴えたことがあっただろうか。騎士様にとっても面倒なだけじゃないだろうか。とんと分からない。









 小屋を建てようということで乾かしていた木材は、山賊退治に使う道具の材料にすることになった。人が隠れられるぐらいの長さの板切れを並べて、その上に、ちょうど間を塞ぐように少しだけずらして板切れを並べる。そして紐をぐるりと何重にも回して固定する。あとは持ち運びできるように内側に取手をつける。仕上げに騎士様が「固定化」という魔法をかけてくださった。なんでも、その魔法をかければ弓矢ぐらいなら防げるようになるということだ。

 あとは木を削っただけの槍を作って、同じように魔法をかけてもらう。ためしに盾と槍を軽く合わせてみると、カアンと硬い音がする。騎士様曰く、元が木だから鉄の剣と打ち合えば壊れてしまうし、長く使えるものでもないということだが、本当にすごい。魔法というのは何でもできる。ゴブリン退治の時には農機具を無理やり槍に仕立ていたが、何だかんだ痛んでしまっただけに、助かる。






 流石におっかなびっくりだった山賊狩も、騎士様の言う通りにしたらあっさりと終わった。もともとかすめ取るように盗みを働くやつらだから大したものじゃないんだろうが、弓を使ったりとこちらからは手を出せなかった。下手に手を出して怪我をする方が高くつく。

 ゴブリンの巣穴に押し入った時と同じように、盗賊の根城へガーゴイルの後ろに数人が盾を構えてついて行く。騎士様もガーゴイルも頼りになるのが分かっているのだから、少しは気が楽だ。流石に見張りから射かけられた時はびびっていたが、ガーゴイルにも盾にも弾かれて、むしろ、相手の方がうろたえて居たほど。

 逃げ腰な相手というのは本当にやりやすい。前と同じように、俺を含めて隠れていたやつらが石を投げる。仲間に当たらないようにしたからほとんど当たらなかったが、注意さえ引ければそれで十分。盾を構えていたやつが近づいて、槍を突き出して殺す。同じことを繰り返して殺していく。

 それでも力自慢のガタイの良い斧を持った大男には盾を構えたやつがびびってしまったが、騎士様が光る剣の魔法で腕を切り落とす。なくなった手を見て喚く男。そして、騎士様に石を投げろという指示。言われるがまま石を投げつけると、やがて男が動かなくなった。そうしたらあとは同じこと。穴だらけになって生きていられるような化け物なんかじゃないのだから。

 残りの作業を終えて、山賊のやつらが持っていた武器と溜め込んでいたものを持ち帰る。大したものはないと思っていたが、頭らしき男の部屋には行商人からでも奪ったのか、金貨や宝石もいくつかあった。お貴族様は宝石を一つと金貨のいくらかを取ると、これで村長には話をつけると言い、残りはここに来た人間で分けるようにと言った。下手をしたらほとんど村長に巻き上げられてしまうだけに、これには皆が喜んだ。







 村に戻ると、また宴になった。

 今度は形だけではない、心からの。何せ、何ともならないと諦めていた山賊共を退治した。それをやった俺たちは英雄なのだから。騎士様も粋な方で、自分はほとんど手を出していないと言って下さった。

 普段は年が上だからというだけで偉そうなやつも、相手を探す盛りの娘も酌に来る。つい酒もすすむ。どれくらい飲んだのかも分からないほど。

 ふと、お貴族様が目の前に。慌てて立ち上がろうとすると、立ち上がれない。

「──その様子では、難しいか。明日、少しばかり話したいことがあるからまた来よう。せっかくだ、十分に楽しむと良い」

 そう言って去って行く。様子を伺っていたやつからは何の話だったかと聞かれたが、こちらが知りたい。








 翌朝、痛む頭を抱えて唸っていると、騎士様がやってきた。

 話はゴブリン退治の帰り道と同じように、山賊退治でどういうことを思ったとか、どうすればうまくできると思ったかといったこと。痛む頭で考えるのは辛かったが、何とか思いついたものを答える。

 そろそろ勘弁して欲しいと思った所で、騎士様が笑う。そして、一握りの金貨を押し付けられた。驚いて見返した所で騎士様が言った。

「もう一つ、仕事をして見る気はないかね?」

 一も二もなくうなづいた。悪酔いも一気に冷め、これは逃すべきではないと思ったから。

 肝心の仕事は、簡単ではないが、できないということでもなかった。騎士様がこの村でやったように、近くの村の人間と一緒に亜人やら山賊やらを退治すること。そして、その内容を定期的に報告するということ。既に村長に話を通していて、他にも何人が連れて行って良い、加えて、ガーゴイルも貸してくれるという。騎士様にとってはガーゴイルも惜しいものではないということだ。

 ただ気になるのは、なぜそんなことをするのか。思わず尋ねると、騎士様は良い質問だと笑った。

「私が思った通り、君は他の村人に比べて頭が良い。そして、難しい質問だ。何せ、私もいくつか予想は立てられても、とんと答えが分からないのだから。まあ、あれだ。本当の雲の上の方が考えていることは分からないということだよ。加えて──あの方は極めつけだ」

 困ったものだと言いながらも、騎士様は随分と楽しそうだった。まるで祭りが待ち遠しい子供のよう、ふと、そんなことを思った。












「──諸君。私は君たちをゲルマニアの誇りだと思う」

 力強く、はっきりと通る声。木を組み上げただけの簡素な壇上の人物は、声に相応しい筋骨隆々。貴族に負けぬ豪奢な衣装ながら、職人として実際に働いてきた者のあり方を感じさせる。

 そして、彼をぐるりと囲む中には同じような体格のものが少なくない。むしろ、もともと引きこもって研究に明け暮れていた私のような人物の方が少ない。トリステインからゲルマニアへ来て、何だかんだと手を出しているうちに、気付けば腕など一回り太くなったが、それでもまだまだ。

 そんな私がここにいて良いのか。ゲルマニアの選ばれた職人方を集めたこの場所。生粋の職人ですらなく、友人のおかげでチャンスをもらった私。良くて、単なる場違いな工芸品に対する研究者だ。そんなことを心の片隅に罪悪感と感じながら、演説は進む。

「知っての通り、我が国は貴族でなければ人にあらずといった国ではない。人は皆、働きに見合った評価を受けるべきだ」

 そして、男が笑う。

「ここゲルマニアだからこそ、私は一代で成り上がった。国に貢献する発明であれば、惜しみなく認めるのがゲルマニア。さあ、今日はその披露会。遠慮はいらない、存分に見せて欲しい。そして、もう一つ。この国の最高の職人たちがここには集まっている。明日の作戦決行まで、それぞれの知見を高め合って欲しい」

 野太い歓声、しかし、悪くない。この空気も心地よいし、ゲルマニアの思想は体に馴染む。

 ゲルマニアは、何か新しいものを作ろうとするには良い国だ。私がここに来てからそう時が経っていないというのに、いくつも新しい試みが始まった。

 例えば、国からの援助金。

 研究内容に応じて毎月一定金額の援助があるというのは非常に有難い。自分の資産を食いつぶしたり、高い利子の借金をしなくて済む。私はたまたま辺境伯からの助力を得ることができたが、それとて成果が出なければ、機嫌をそこねればいつ切られてしまうか分からない不安定なもの。年単位で保証されるというのは大きい。

 むろん条件はあるが、それも考えようによってはメリット。互いの技術を可能な限り共有し、協力すること。たしかに、独占したいという思いは出てくるものだろう。それでも、足りないものを持ってこれる可能性が出るのは大きい。そもそも、各自がバラバラでやっていれば、解決の為の技術があるかどうかすら分からず、無駄な時を過ごすはめになるのだから。そうやって埋れた、失われたものはきっと多いと思う。

 ゲルマニア皇帝がそれぞれ抱え込みたいだろう各領主をどう説得したかは分からないが、本当に大したものだ。つい先日までは、各諸侯があくまで手元においた上でという形だったというのに。もともと祖国では認められないからとゲルマニアを訪れるものは多かったが、今後は更に増えていくだろう。実際、自分の元にも相談が入っているぐらいだ。

 それに、私個人としても、新しいものを見て、実際試すことができるのは大きい。それは、純粋に楽しい。今日だって面白いものをきっと見れるだろう。

 後ろからそっと耳打ち。

「──おい、ゼファー。行くのは良いだろうがほどほどにして置けよ? 皆が皆、俺らみたいによそ者を受け入れるとは限らないからな。トリステインの人間はまあ、高慢ちきで嫌いだっていうやつが多いからなぁ」

「分かっていますよ。自分自身、今となってははあの国に愛着もないぐらいですしね」

 私があの国に戻ることは、きっと、もうないだろう。









 それなりに覚悟して行ったが、最初に渋ることはあっても、話し始めれば皆気の良いものだった。いや、むしろ時間が足りないほど。何せ、話が合う。

 全部が全部というわけではないが、多かれ少なかれ場違いな工芸品の技術を取り入れようという試みを考えたもの達がいて、そうすると、悩みというのも共通している。つまり、使われている技術がどういう意図を持ったものなのかの理解が難しいこと、そして、純粋に再現が難しいということ。

 前者は当然のこととして、場違いな工芸品は、使われている部品一つをとっても、非常に高精度に、そして、狂いなく作られている。今回の催しではとにかく一つ試作できれば良いということになっているが、その一つに手間がかかる上に、更に同じものをつくるというのが難しい。解決には高精度の加工機と、そして、それ扱う能力が必要。私達が言った完璧な職人が必要だというのは大いに納得された。

 場違いな工芸品を作った者達は、それを作れるだけの人としての能力が遥かに優れていたのか、それとも、その為の道具すらも生み出したからこそか。私としては後者だと思っている。作られた物は私達と変わらないような能力の持ち主の能力を拡張するようなものだと思われるし、何より、私が見た本と、友人から聞いた話。

 巨大な工房で分担して作成する様子や、忠実に命令を再現する機械式の「ロボット」というものの存在。友人は、前者はともかく後者は非常に難しいし、仕組みも知らないものだと言った。しかし、実際に使っていたからにはできないものではないのだろう。ちょっと考えても、確かにガーゴイルやゴーレムは複雑な命令や精密なことを行うのが非常に難しい。だが、可能性としてはないではない。私が話をした人物も難しいとは言ったが、アプローチを変えればあるいは。

 それこそ、場違いな工芸品の世界では無いという魔法だ。魔法には火を生み出したりといった直接的な効果だけでなく、魔力が人の能力を強化するというものもある。達人と呼ばれるものは、無意識的にも魔力がそのように働いているという。それを何らかの手段で道具の形にすることができれば、可能性はあるのだと思う。今の試みが形になったなら、次はそれをテーマに取り組みたい。むろん、まずやるべきことをやってからだが。











「──頑張ってくれよ」

 金属板を貼り合わせた角ばったボディ。

 コンと叩くと、しっかりとした感触が逞しい。今回乗り手の栄誉こそ私よりも運動神経に優れたものに譲ってしまったが、それでも、相棒という気持ちは変わらない。

 前方に一つ、後方に二つのタイヤのついた車台。その上には操舵輪をつけた一人で一杯になる操縦席に、後方半分は少しばかりゴテゴテしく、小型の炉とパイプで繋がれた水のタンク。炉の動力を上下運動から回転運動に変換して前に進む力にしている。

 私達が作成したのは、馬のいらない馬車。それを馬車と呼ぶべきかには疑問があるが、私達の中でもそれぞれが名付けを譲らなかったので、仮の名前としては丁度良い。私としては自ら進む車、「自動車」というのを押したい。

 これは、ベースとしては石炭を使った蒸気機関であるが、使うものが火石になっている。これまた国からの援助様々で、貴重な火石惜しげも無く実験に使うことで形にできた。何度か爆発事故こそ起こしたものだが、おかげで、安定して火力を取り出すことができている。

 場違いな工芸品を参考に最小限の部品で構成、芸術家もかくやとの作り込みで組み上げ、これまで慣らし運転を行ってきた。同じものを作るのは難しいかもしれないが、こいつの安定性には自信を持てる。

 そして、今回見せるべきはその安定性と動力としての活用の柔軟性。その為に、皆の発明品を目的の場所へ運ぶということを行う。戦争において輸送は重要だ。直接的な戦争の道具ではないが、有用性は認められた。

 何より良いのは、それはそのまま平時の輸送にも役立つということ。国からの援助を受けるにあたって戦争の道具が求められることは仕方がない。だが、私としては、それだけでは寂しい。次のテーマである工作技術の研究を行うにも参考になるだろうし、その結果はまたこれの改良、発展にも役立つだろう。












「──オークの巣の殲滅。確かにゴールには辿り着きましたが、少しばかりやんちゃが過ぎますかな」

 居並ぶ諸侯の中、年嵩のものが苦々しげに口にする。「やんちゃ」という評価に、同じく困ったように笑う者も。

 一堂に介せば潜在的な敵同士としての探り合いになるが、今回は少しばかり違う。隙あらば私から王の座を奪おうとする者達であるが、目的を一とする今、協力の姿勢であることは重畳。

「まあ、そう言ってやるな。これが場違いな工芸品の難しさではないか。だから作ったものの中で一つでもまともに動けば良いとした。まあ、確かに自爆というのは予想外であったがな」

 脳裏から離れない、見事なまでの自爆。

 加工した火石を爆弾として、大口径の榴弾砲で打ち出すというもの。1発目こそ中々の威力を示したが、2発目は不発、3発目は見事な自爆。死人こそ出なかったことは救いか。

「──だが、それでも面白いものもあった。何より、あれらの運用の可能性を見れたことは大きい。実際に使えるようにするには発明家ではなく、戦術論を理解している我らの仕事。それぞれに領分というものがある。ゲルマニアという国を埋れさせない為には、ここが力の入れ時だ」

 見渡せば皆が頷く。

 潜在的に各諸侯はそれぞれが王の座を狙う敵。だが、始祖の直系を中心に、ロマリアがゲルマニア以外の国の結びつきを強めようとしている現在、内輪もめなどして手を打たねばどうなるかが分からないほど愚かではない。

 だからこそ、使えるものは何でも使う。それこそ、エルフの協力であったとしても。敵の敵は味方──とはいかずとも、少なくとも、仲良くして悪いことはない。何より、足りないものはあるところか持ってくる、それこそがゲルマニアだ。古臭い、全てを始祖に依存した価値観、その中では血が全て。ならば、ゲルマニアは新しい価値を提示するまでのこと。

 ──それに、始祖への対抗馬とて、ないではない。それが今この時代にあるとは、何ともよく出来たものじゃないか。



コメント
感想
ジョゼフは何を目指しているのでしょう?
多少村人を鍛えても意味があるとは思えないんですが。

ゲルマニアの皇帝、リッシュモンみたいに傀儡にされるフラグたってませんか?
2013/11/29(金) 01:08 | URL | ファルケ #Do36FZBw[ コメントの編集]
Re: 感想
> ジョゼフは何を目指しているのでしょう?
> 多少村人を鍛えても意味があるとは思えないんですが。
>
> ゲルマニアの皇帝、リッシュモンみたいに傀儡にされるフラグたってませんか?

原作でも強みを見せる王2人、ただの三下になる予定はありません。
2013/11/29(金) 07:40 | URL | you #-[ コメントの編集]
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