イザベラ女王

イザベラの女王としての第一歩を、今回も三人称で



 一人きりになったイザベラは、自室で涙をこぼした。イザベラが見つけた唯一の願い、父親であるジョセフに認められることは叶わないものとなったから。

 イザベラは、一晩泣いて過ごした。そして、もう泣かないと誓った。祈るべき神のいないイザベラは、自分自身に対して。その手にある、手紙に対して。

 ジョセフの書斎にはイザベラ宛の遺書があって、ガリアを頼むと書いてあった。事細かにどうすれば良いかが書かれており、何より、末尾にお前なら出来るという言葉があった。自分が誇れることることができたなら、それは、ジョセフに認められたのと同じだと自分に言い聞かせた。

 イザベラの能力であれば、そう難しいことでは無い。ジョセフは自らの死を前提に準備しており、ブリミルも、ジョセフとその使い魔の死以外の事は求めていなかった。そして、仇であるブリミルが憎いかというと、イザベラにそんな想いは無い。イザベラ自身、ジョセフは信用できる人間ではなく、それは仕方ないことだと理解していたから。だから、やるべきことに集中できた。集中できることがあるというのは、イザベラにとっても好ましかった。

 ただ、一つだけ困ったことがあった。おまけのように書かれていた、アルブレヒト王が結婚相手になるかもしれないという言葉。

 イザベラにとって、アルブレヒト王を結婚相手とすることに否は無い。成り上がりなどという現実を見ない偏見を除けば、見込める利益、能力、格ともに申し分無い。小娘と侮られないようにする必要はあるが、それは、今後どうあっても付きまとう問題。一回りも二回りも違う年齢は難だが、種があることは分かっているのであれば問題無い。好みでは無いが、生理的嫌悪とまではいかない。ならば、良縁だと言って良い。そもそも、王族の女とはそういうものなのだから。

 しかし、確認しておくべきことはある。イザベラには、男女の営みについての知識が最小限しかない。要するに男のものを突っ込めば良いんだろうということは知っているが、それは最低基準以下だとイザベラ自身が理解している。子供が生まれるのであればとは思っても、意味が分からない。あんな狭い場所にどんなものを入れるのかと。分からない、理解の及ばないとなれば、イザベラだって怖い。イザベラは、小娘と侮られることこそ避けなければならないのに、それではまずい。






「──というわけで、だ。ビダーシャルにファーティマ、やってみせろ」

「断る」

 呼びつけたビダーシャルは、一言で切り捨てた。

「絶対に嫌です」

 珍しいことに、ファーティマまでもが反抗的だ。普段の気弱そうな垂れ目を吊り上げている。

「まったく、なぜ寝室になど呼ぶかと思えば……」

 ビダーシャルに至っては、軽蔑の表情を隠そうともしない。全くもって、嘆かわしいことだとイザベラは思う。

「いいから、やれ。私に恥をかかせるつもりか。だいたい、毎晩飽きもせずにやっていることだろうが。この前なんか、外でやっていただろうに」

「……なんのことだ」

 ビダーシャルは平静を装っているが、ファーティマはスッとビダーシャルの後ろに隠れる。ファーティマはかまかけにもあっさり引っかかるなど、その素直さが好ましい。素直さに点数をつけるのなら、満点だと言って良いだろう。ファーティマのおかげで、イザベラが優位になる。イザベラはそれを逃すほど甘くはない。

「二人していなくなったから、想像はつくんだよ。外でやるぐらいなら、見られても別に良いんだろう?」

「……そういう問題ではない」

 ビダーシャルは不利を悟りながら、それでも頑として認めようとはしない。

「何が問題なんだ? だいたい、どっちが言い出しだんだよ」

 ビダーシャルの後ろから様子を伺っているファーティマと目が合うと、必死に首を振る。

「やっぱりビダーシャル、お前だろうが。見てやるから、やれ。女々しいことを言っているな」

「お前は、乙女の恥じらいというものが無いのか……」

 ビダーシャルは眉根を寄せ、言わずもがなことをのたまう。

「そういう恥じらいは、無いね。私にファーティマのような女の子らしさなんかを期待されても困る」

「乙女なら、その恥じらいを持つぐらいで良いだろうに。それが良いという男は多いと聞くぞ。だから、初夜こそが特別だと」

 ビダーシャルの言葉に、ファーティマが表情を曇らせる。

「……ごめんなさい」

 急に謝りだすファーティマに、珍しくビダーシャルまでもが慌てる。

「あ、いや、さっきのは一般的な話であって、私はそれを求めたりはしないというか……。お前の場合は、不可抗力だったというか……」

 ビダーシャルはファーティマの肩を抱き、言い訳がましい言葉を重ねる。お前が一番大切だなど、聞いているイザベラが居心地が悪いと感じるほど。

「……じゃあ、私が部屋を出るから、慰めてやりなよ。この部屋のベッドは好きに使えば良いからさ。使う予定の無い部屋だから、好きにすれば良いよ」

 ビダーシャルは非難がましい目は向けるも、何も言わなかった。









 子が両親の血を引いていることを証明する為、親族の監視のもとで行為をという風習は、決して特異なものではない。血を引くことこそが、最も重要な繋がりの一つであるからには。

 ただ、監視の中で行為に及ぶというのは、中々に気持ちの上で難しい。ましてや、経験の無い者同士ということであればなおさらのこと。その為、監視があることが分からないように細工をされた部屋を作るということも、珍しくは無い。偶然、ガリアの王城にもそのような部屋があった。




「そうか……。入るもの、なんだな……。そっか……。ファーティマも、なんと言うか、うん、女の顔って言えば良いのか……」

 暗がりに身を隠すイザベラは、珍しく年相応の少女の顔だった。

 そして、ふと目を細める。

「子供は、二人が愛し合って、か……。いいなぁ、そういうのは……」


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